2011年1月15日土曜日

涅槃する 6

                  
溶岩の渓谷。並々ならぬ訳ありに高かったり低かったりした雨が止んでいる間の足下は慣習の打ち水、持ち寄るせせらぎは手水の情愛か、と眼の光で誓った御洒落な水に浮かぶ影を野辺にて思い育むとき、〝幻の滝〟だの〝幽霊橋〟だのと他愛無く名付け石した子孫から借り受けし生活空間を構築する渓谷美は、歴史に過ぎ去った噴火からの大様なる溶岩流が繊細な立ち居振る舞いで勤しんだ生き身は死に身の素晴らしきかな姿です。


立ち尽くす時の揺りかごにてずっとそのままの状態で年月を経るつもりの自分の地位から活動する上での立場の比翼塚は、マグマの心音を万に揉み解す現実味と一元化した画肌な、谷川の流れに抜け落ちる毛髪の実在を四季で弾かせつつ跳び箱の東屋にて心も和やかに遊び広げ、筒咲きの滑り台で楽しむ万物の過客にもてなされる住まい。象の卓袱台とか鰐の椅子では切に祈る冷たい静けさに抱擁され、それでいて天文に胎動を与えさせて浮き浮き、おとぎの国みたいな地球にて残り香のあんみつ姫と遠大な百八夜はどこまでも満ち溢れていく。


次第に通俗化した芳香になっていく風穴の風の山沢は、花畑の純真な円い塚から急勾配で落下しており、飽きる光に色づいた雨の辛口や飢える夜に降る雪の甘口とも縁を切って大輪のラムネ色が迸らずに間を透かす時期もあり、【ご近所の夜を切り裂く声】の面持ちな太陽の湯殿へと、しばしば避寒に訪れる無垢な鴨は〝ちろり〟とでも者の兆しを嗅ぐや否や、水面の鏡が色流しとも染め入れたバスタオルを幼い微熱で弾きたて、瞬く間に悲鳴を拭きこみながら飛び走っていた。
ここでは雌雄同体な同色にガンなどの色感が命脈を保つ先住の生命であって、侵略者のほうから協調してあげられる順応性が一つ屋根の生活なのに、追い払ってしまう。


何はなくとも過去の罪過を洗う。煙雨やら氷雪を統率した激流に撓みつつも火成岩の裂け目から成長する型に嵌まらない雑木は我武者羅に小枝を掲げ、吹抜き屋台の技法ばりな美妙な積み重なった緑の森の道に葉擦れの斜光で舞姫するエメラルド色の木漏れ日は、銀の矢衾に化身して骸の影を射中て、金碧に流転した水鏡の煌めきが沐浴の陰に差す。


否応なしに切り絵される稜線からの湧き水によろめく亀裂が源流となり、地形図も目溢す滝口の小袖を細工して霊長の往来など捻り出せないどころか青天も通わせない獣道の崖から深い野への岩場を無機質な半永久的土木建築ぶる橋の愚に夢がましく優越感めかし、谷陰を流れ流れ、自殺の名所が成り返った赤い阿蘇大橋から数鹿流(すがるが)の滝まで洗い清め、山沢のヒトになった素肌の本音を溜まり溜まった熱い汗にて葬送と、山ノ神の陰子は有明海に運んだ、
(しでのたおさ・ホトトギスの異称)



 闇裂くは死出の田長と音に聞き 嘆きの霧も正しく墜ちる







(【夏下冬上】のブログに09年11月02日に投稿していた分を移しました)
                                     

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